職場のパワハラをどのように疎明するか
パワハラが原因とはいえ、退職を決めたのはあなたの意思であるため、その原因が、職場のパワハラであると主張するためには高いハードルがあります。もしすでに離職をしている場合には、離職票の離職理由はどうなっていたでしょうか。これが「一身上の理由」となっていて、認印まで押印してあれば、これを覆すことは極めて困難です。
職場のパワハラによって退職した、とする目的は、雇用保険を有利に受給することがあります。あるいは会社から直接経済的な補償を求めることもあるでしょう。いずれにしても、職場のパワハラが退職の理由であることをどう証明すればいいのでしょうか。
パワハラの事実を示す資料はあるか?
もし離職後であれば、事後的に会社に対して経済的な補償を求めることになるかと思いますが、まずパワハラの事実を認めてもらわなければなりません。その上で、その職場のパワハラが離職の最大の原因であったことを、どう主張するかが課題です。このように、パワハラの事実認定と、パワハラと退職の因果関係という二つのハードルをクリアする必要があります。
パワハラと退職の因果関係については、在職中にパワハラの解決を再三にわたり会社にと求めてきたが、全く対応されなかった、とか、解決に消極的だった、効果的な措置を全くとってもらえなかった、といった事実があれば、説得力を持って会社に対してパワハラの退職の因果関係を主張できるでしょう。
また、離職の意思表示をする際に、あるいは退職届などに、パワハラが理由である旨を伝えたのか、記載したのか、という点も重要でしょう。もっとも、その場合には、離職票の離職理由についても、「一身上の都合」とはならないでしょうし、かりに「一身上の都合」とされた離職票にについても、同意はしないでしょう。
もし提出した退職届などに「一身上の都合」などとしている場合には、真意は異なるところにあったことを理解してもらわなけれななりません。
このように、離職後に、事後的にパワハラについて会社側に何らかの解決要求をするのは、超えなければならないハードルがいくつも増えてしまいます。職場のパワハラについての対応は、在職中に会社側に対して、しっかりと求めておくことが重要です。
いま退職をお考えの方へ
退職後の対応は、在職中にどのような解決のための行動を起こしていたかによって、大きく異なっています。もし、上司からの卑劣なパワハラに対して、何の対応もされていないのであれば、何らかの解決行動を起こすべきでしょう。何もせずに退職という選択肢を選んだ場合には、後から会社に対して職場のパワハラの問題を追及することは、かなり大変な負担を強いられることになります。また、ここで多少の妥協をしたとしても、解決行動を起こしたことで、何らかの合意が得られるような解決点に達したとすれば、それはあなたにとって「自信」という大きな財産になります。
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退職は問題の解決ではない
もしあなたが自主的に退職したとしても、まさに上司や会社の思うつぼでしかありません。退職することによってパワハラから逃れることができるという意味では、問題の解決方法のひとつかもしれませんが、それは社内的な解決に行き詰り、選択の余地がない場合の、最後の選択肢でしょう。もしまだ社内的な解決を図っていないのであれば、まずは社内的な解決を図るべきです。勇気をもって、問題解決の第一歩を踏み出してください。
とはいうものの、今あなたはおそらくすでに離職しているかもしれませんし、あるいは退職届をすでにお出しになってしまっているかもしれません。あなたのおカレダ状況に応じ対応方法をお考えになる必要があることになります。
既に離職している場合
とくに在職中にパワハラについて、一切問題解決を社内的にお求めになっていなかった場合には、まずパワハラがあったことを指摘するための事実関係を、記録として整理する、書き出してみることから始めなければなりません。あなたがパワハラであると感じた事実関係を、時系列で整理してみれば、新たな問題の真意が見つかる可能性もあります。
例えば、嫌がらせが始まった時期と、ある特定のスタッフの採用の時期がほぼ同時期である場合には、あなたに対する退職勧奨の意図があった可能性が考えられます。あるいは、特定の状況でのみ問題の嫌がらせが起きていたことが分かれば、その特定の状況以外の状況では、その嫌がらせの加害者は、その嫌がらせ行為自体を知られたくない、あるいは、事実上することができなかったことも考えられます。こうした場合には、その嫌がらせの行為者に何らかのダメージを与えることで、あなたの溜飲が多少なりとも降りるのであれば、あえてその事実明らかにすること自体に意味があるかもしれません。
いずれにしても、まずその嫌がらせの事実関係を、客観的な事実として冷静に把握することがその解決行動のスタートになると思います。その上で、あなたご自身のお気持ちとして、この問題にどのように折り合いをお付けになりたいのか、その方向性を実現するための行動を起こすことになります。
離職後の場合には、一般論として金銭解決という選択肢のほかに見当たりませんが、これは訴訟という強制力のある手段をお使いになるまえに、会社側に任意での対応をお求めになることは、訴訟まで念頭に置くかどうかにかかわらず、大切なプロセスではあります。そこでもし会社側が、任意であなたの要求に応じることがあれば、それに越したことは無いでしょう。その可能性が無かったとしても、解決行動を起こすという第一報を踏み台という意味でも、何らかの要求をしておくという行動自体が重要ではないでしょうか。それに対して会社側がどのような対応、反応を示すのかによって、次の展開を熟慮することが大切になってくるのではないかと思います。
離職の意思を示してしまった場合
上司に対して、既に離職の意思を示してしまった、あるいは退職届を出してしまった場合で、ここまでお読みになったあなたが、やはり退職を取り消したい、とお考えになったならば、早急に離職の意思表示の撤回を求めることが賢明ではないかと思います。ですが、離職の意思表示の撤回は、一般論として会社側が任意で応じない限り、事実上撤回することはできないとお考えになる必要があります。ここで会社が撤回に応じた場合には、会社としてはあなたの規則して就労して欲しい、少なくとも残って仕事を続けることに否定的ではない、という会社側のメッセージとして解釈することができるかもしれません。
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