あっせんで満足できる結論を導くためには

2023年10月18日opinion&topics,解決制度の活用方法

労働局のあっせんは解決制度の重要な選択肢

あっせんによる解決は、労働審判や訴訟による場合よりも、解決金の額が少ない点を指摘される場合がありますが、その一つの理由は、それは当事者間の任意の合意が前提になってい ることを考えれば、やむを得ない部分かも知れません。ですが、物心両面にわたる費用対効果を考えた場合には、必ずしもあっせんの方が得るものが少ない、とお考えになるのは早計ではないでしょうか。

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会社側は何を、どう考えるか、を探ること

この強制力のない制度に、会社が応じるわけがない、とお考えになる前に、会社はこの問題をどう捉え、どう収拾を図ろうとしているのか、という真意を探っておくことは、あっせんを活用するにあたって、とても重要なことです。もし会社が、訴訟は避けたいと考えているとすれば、あっせんによる解決は間違いなく選択肢に入っています。しかも、会社側に訴訟での不利が想定できる場合には、なおさらでしょう。

あっせんは、合意形成のみに意義がある制度

お互いが任意の話し合いをするだけの制度に、いったい何の意味があるのか、とお考えになる方には、あっせんという制度が、お互いの話し合いによって、「合意形成を図る制度」であるという点を強調しておきたいと思います。合意形成を図る、というのはどういう意味か…何も被申請人が申請人に対して金銭を支払うという合意だけではありません。合意形成には、今後一切この問題について解決を求めない、という合意が含まれます。つまり、会社側=被申請人にとっての大きなメリットは、訴訟リスクをゼロにすることができる、というものなのです。そうした意味では、個人的には、会社側=被申請人は、もっとあっせんという制度を有効に活用すべきではないかと考えます。

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会社側があっせんに応じない理由

訴訟リスクをゼロにすることができる解決制度であり、しかも話し合いの状況によって、会社側の意向の範囲内での合意が図られる可能性もあるのですから、会社側があっせんに応じない理由は、見当たらないようにも思うのですが、現実的には半数以上のあっせんが拒否されているのは、会社側のどのような理由、考え方があってのことなのか、これはあっせんでの解決を目指す場合に、会社側の真意を探っておくことはとても重要で、もし会社側にあっせんに応じるよう働きかけることがある場合には、この点を考慮に入れない訳にはいきません。

任意の合意を由としない会社のメンツがあるから

感情的に相容れない、会社としては何としてでも排除したい従業員から、任意の解決制度による解決を求められたとしても、そんなものに誰が応じるか、という感情的な判断です。任意の話し合いに応じるなど、会社が申請人従業員からの申し入れに応ずるということに、なんとかく屈辱感があるのかもしれませんが、いずれにしても冷静な判断とは思えないものです。ですが、そもそもトラブルは、感情的なすれ違いが問題の本質ですから、会社全体の世論が、申請人に対する問答無用の姿勢であれば、これはもう理屈の話ではありません。

本音は感情的な判断に終止符を打ちたい!?

ですが、その中に一人でも物事を冷静に意思表示ができる役員が一人いれば、感情的な判断が正しいなどと思う人はいない訳で、申請人憎しの感情だけが暴走する会議なかで、大方の出席者は心の中で拍手喝さいをするのです。そこで本当は感情の暴走に歯止めをかけて欲しかった経営者は、逃げ道ができた安堵などおくびにも出さずに「そのような意見があるのであれば、まぁ、応じるという選択肢がないわけでもない」などと、お茶を濁すようにあっせんに応じる、ということもあるのではないでしょうか。

顧問弁護士にあっせんに応じる必要はないと言われたから

実は、これが一番多いケースではないかと思います。しかも一番厄介でしょう。まずは顧問弁護士、顧問社労士に相談して…ということになるかと思いますが、ここで「そんなものに応じる必要などない」などと即答一刀両断にされれば、やれうれしや問題解決とばかりに、応じない旨の返答を労働局にして一件落着にしてしまうのです。ですが、冷静に考えれば、応じることで見いだせる可能性に期待する方が、よほど建設的であることは間違いないのですから、おそらくは会社側の真の意向が反映された判断かどうかは怪しいと感じます。

応じる可能性は、訴訟リスクの考え方次第

ただこれは個人的な感覚ですが、少なくとも私が関与したあっせんでは、応じることが多くなっているように感じます。調停であれば、まず応じるのではないでしょうか。しかもその場合には、会社側に弁護士が同席しているようです。もちろんあっせんの結果が満足のできる結果になるかどうかは、全く別の問題ですが、少なくともあっせんという任意の話し合いの場に、会社側=被申請人をまずは引き込むことが重要ですので、応じない可能性がある場合には、その前に手を打っておくことも必要かもしれません。やはりポイントは、会社側=被申請人がどれだけ訴訟リスクを感じているか、ではないかと思います。

法的根拠のある主張は、やはり必要。とは思うものの…

あっせんは話し合いによる解決制度とはいえ、何の根拠もなく合意点にたどり着くことはできません。その合意点に至るプロセスを左右するの が、法的な根拠のある主張です。ですが、ご自身で申請書面を作成する場合に、この点は大きなネックになります。もっとも、おそらくほとんどの労働者である申請人は、相談コーナーの相談員と話をされながら、ご自身で申請書の作成をしているのではないかと思われますし、その相談員を通じて申請書を提出しているのではないかと思います。

あっせん申請書面の主張内容は、合意形成のための「参考資料」

あっせんでは事実の当否に関わる判断は一切しないものであるため、どこまで客観的な主張が必要かは、バランス感覚が試される部分かと思います。ちなみに、このあっせん申請書は、あっせん委員宛に提出するわけですが、このあっせん委員が実際のあっせんの場で、会社=被申請人との話し合いの仲介をしてもらうことになる訳ですので、如何にこのあっせん委員に、申請人の主張に共感をしてもらうか、が申請書作成のポイントになります。

あっせん委員に自分の立場を理解してもらえるか?

このように、あっせんで有利な結論を引き出すためには、まずあっせん委員の心証形成を、自分にとって有利なものとすることが不可欠で す。そのためには、どれだけ法的な根拠をもって、しっかりと主張を展開できるかにかかっています。しかし労働局のあっせん申請書の様式では、状況を細かく 書くことは、そのスペースの制約から、ほとんど不可能です。そのため、要求事項に対する理由について、陳述書とか、意見書といったもので、法的な根拠に基 づく主張を展開する資料を別に提出することが必要不可欠でしょう。

対応方法はまさにケースバイケースですので、具体的なケースについては、ご相談メールをお送り下さい(「パワハラ相談窓口」のページへのリンク)。あなたの状況への対応方法などについて、簡単にコメントして返信します。