お金がすべてじゃない、という言葉を経営者が発することほど説得力ないものはありません。本当にやりがいがあると思える仕事であればともかく、つまるところ賃金の支払いをできるだけ抑えるための方便であるとすれば、サービス残業の強要以外の何物でもありません。
パワハラ上司が恩着せがましく「君のためを思って…」などと言い訳を並べるのと同様、責任ある仕事を君に任せる、とか、君の能力を大いに発揮してほしい、などと心を揺さぶられるような言葉とは裏腹に、過重労働に見合わない低賃金労働に対する同意を得るための甘言にすぎないかもしれないのです。騙されてはいけません。
やりがいがあれば労基法違反も許される、などという理屈は通りません。ここで、何かおかしいぞ、というごくごく当たり前の感覚を持ち合わせておくことが大切なのです。
経営者感覚で仕事をしろ、というのは、何でも指示を待って自発的に動かず、責任感のない仕事に対する叱責です。仕事で成果を上げることは、会社にとっても従業員にとっても価値のあることだ、という意味で、自分のために仕事をしろ、などといわれたります。成果が上がれば、それに見合った報酬が予定されている、それだけでなく、自分自身のスキルアップにつながるのだ、ということなのでしょう。こうした指摘を肯定するのであれば、逆の立場からの指摘も肯定できるのです。それは、
経営者が間違った指示を出したのであれば、きちんと指摘するべきである。それは会社のためになるからだ。会社が労基法を守っていないならば、守らせるようにすべきだ。コンプライアンスを徹底した素晴らしい会社であるという評価を得ることができるのだ、と。
ただ会社の言いなりになるだけでは、会社のためにも良くないことだし、その会社に雇用されている従業員に、そのつけが結局は巡り巡ってくるのです。
しかし実際には、「経営者感覚で…」、という紋切り型は、会社の意図を組んで、経営者の気持ちを理解して、ということなのですから、誤解を恐れずに言えば、つまるところ「会社には逆らうな」と言っていることと同じ、ということになるのではないでしょうか。
「経営者感覚で…」と口にする経営者は、ぜひ将来経営者になるであろう従業員の手本となるような労務管理をしていただきたいし、間違っても労基法を軽視したり、労災隠しなどをしないようにお願いしたいものです。
ゆくゆくは正社員になるだろうから…
などと言われて、不利益に変更された契約更新に応じたが、待てど暮らせど「正社員」などと言う言葉はどこからも出てこない。おそるおそる、あの話はどうなったのか、などとそれとなく聞いてみても、要領の得た返答などどこからも返ってこない、それどころか、「そんな話があったかな」ととぼけられるか、あるいは「その話は無くなった」などと開き直られることも…もうこんな甘言に騙されるのは止めましょう。本当に正社員にすることを条件にするのであれば、きちんと契約書面に、いつ、どのような条件で正社員にする、とはっきりと書かせることです。
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