なし崩し的な降格配転、降格減給
自分は管理職であるはずだったのに、気が付いたら、契約社員になっていた…
そんなバカな、と思われるでしょうか。何かおかしいな、と思っていたら、意味不明な辞令やら、担当職務の変更が命じられ、釈然としないまま応じていたら、気が付いた時には、あなたが担うべき仕事がない、と言われるのかもしれません。なぜこのようなことになるのか…これはあまりに計画的なリストラであり、退職勧奨を意図した嫌がらせという側面もあるかと思います。では、なぜあなたがその状況をについて問題意識を持てなかったか、と言えば、これは極めて巧妙としか言いようがありませんが、一つは、時間をかけてわずかな変更を徐々に進めていること、もう一つは、労働条件、特に賃金については現状が維持されているからです。
時間をかけて少しづつ侵食する抵抗感がない職務変更~想定ストーリー
例えばあなたが現在従事する業務は、経理を担当する管理職であるとします。この巧妙に仕組まれた計画が実行される第一段階は、
「君は今経理課長だが、総務課長も兼任してもらえないか」
という打診かもしれません。それに対してあなたは、
「総務については全くの門外漢で、今でも経理業務で手一杯の状況ですから、とても兼任など…」
と答えると、人事部長は
「いや、経理業務は課長代理の〇〇に任せればいいし、総務は△△がすでに課長代理としてしっかりやってくれているから、心配ないよ」
と言われ、あなたはどこかで「あれっ…」と思いつつも
「そういうことであれば、承知しました」
などと答えるかもしれません。これであなたは、経理課長から、経理課長兼総務課長、ということになりました。そしてあなたは、総務についての業務の基本を、総務課長代理の△△から教えてもらいつつ、経理業務については〇〇に、自分の担当業務の一部を引き継いでいます。
しばらくすると人事部長からあなたに
「ゆくゆくは経理課と総務課を統合して、経理総務部としてスタートさせたいが、君にその責任者になってもらう」
と言われ、経理課長兼総務課長という肩書に加えて、「経理総務部スタートアップ室長」という肩書が与えられます。あなたは、これは大変なことになった、経理課と総務課に加えて、新たなプロジェクトまで任され、こなし切れるだろうか、などと不安になりつつも、一方でやりがいも感じています。
そんな不安を見透かしたように人事部長があなたに、
「膨大な業務を君に一人に押し付けるつもりはない。君には経理総務の統合に向けた業務に注力してもらいたい。まずは君が担当している経理業務を、時間をかけていいので、〇〇課長代理に、しっかり引き継いでほしい。その上で、プロジェクトの完成に邁進してくれ」
などと告げられます。経理業務のすべてを部下の〇〇課長代理に引き継ぐことについては、心なしか不安というか、寂しさもあったが、新たにスタートする経理総務部に向けた業務を完成させよう、という気持ちになっています。
しばらくすると、あなたは、あれっ、という事実に気が付きます。これまで各部門別の会議には、経理課長として参加していたところ、その部門別経営会議のメンバーから外されていた。その会議には、〇〇課長代理が、自分に代わって参加しているらしい。経理課長は自分だ。なぜ自分に一言の断りもなく、経営会議から外されたのか、あなたは人事部長に説明を求めます。すると人事部長は、
「君はすでに経理業務をすべて〇〇課長代理に引き継いているのだから、会議に参加するのは〇〇課長代理で当然じゃないか」
と言われ、何か釈然としないものを感じつつも、間もなく統合される経理総務部の部長には、自分が就任する、と半ば確信していたあなたは、その釈然としない気持ちを、打ち消そう、と意識しようとします。
新年度を数カ月前に控え、経理総務部の新設が発表されたが、あなたの期待に反して、部長に任命されたのは、役員の一人で、兼務役員として就任することが発表された。
ここであなたは一気に不安感が大きくなります。自分はどうなるのか…すると人事部長から、「経理総務部スタートアップ室」の解散と同時に、あらたに「新規事業部スタートアップ室」が立ち上げられ、その室長に任命する辞令を受けた。ちなみに、〇〇課長代理は経理課長に、総務課の△△課長代理は、総務課長に、それぞれ昇進が発表された。
「今後、私は何をすれば…」
「文字通り、新たな事業の立ち上げだよ」
「それは、どのような事業でしょうか」
「それは君が考えて、事業化する」
「えっ…」
「事業化して、採算ベースにのせることが、君の職務だ」
「ど、どういうことなのか、あまりに唐突で…」
「単刀直入に言うが、もうこの会社に君の居場所はない」
「…」
「君自身が、自分の給料分を稼げるような事業を立ち上げて、そこから上がる利益で賄ってくれ、ということだ」
「それじゃ…まるでリストラじゃないですか!?」
「そう取ってもらって構わない」
ここで初めて、あなたは自分がリストラにあっている、という現実を、否が応でも認めなけばならない、そんな状況を突きつけられることになります。
人事部長が提示した条件は、採算がとれる事業の立ち上げまでに与えられる猶予期間は1年間で、それまでは従来の賃金は保証する、というものだった。それ以後の賃金については、その時点での業務遂行状況に応じて、考慮する、というものだった。
あなたとしては、この条件で1年間必死に新規事業の立ち上げに心血を注ぐか、あるいは、これは不当なリストラであるとして、法的解決を求めるか、悩むことになります。
ラストチャンスは、本当にラストチャンスなのか
ですが、ここで考えなければならないことは、あなたはリストラにあっている、という事実です。もしここで与えられた新規事業立ち上げのチャンスを生かして、本当に大きな事業展開が実現した場合、会社はあなたをその事業部の責任者として雇用し続けるのでしょうか。繰り返しますが、あなたはリストラにあっている、つまり会社から事実上の退職勧奨を受けている、という状況であることを改めて考える必要があります。「経理総務部スタートアップ室」と同じ末路をたどるのではないでしょうか。
【参考コラム】退職勧奨にどう対応すべきか
ですが実際には、あなたに対する退職勧奨意図を会社が強く持っている場合には、その新規事業が失敗するような方向への様々な妨害が入ってくるのではないでしょうか。もしこのチャンスを生かそう、とお決めになった場合には、その後の会社のその事業展開への姿勢をしっかりと見極めて、会社の意図、真意がどこにあるのかを確認しなければならないと思います。
【参考コラム】退職勧奨を意図した業務委改善計画(PIP)にどう対応するか
そして1年後、事業が芳しい成果を上げられないまま、人事部長から、賃金減額を受け入れて会社に残るか、上乗せ退職金を受け取って退職するか、の選択を迫られます。
まさに梯子を外す、というものですが、そのプロセスが特徴的です。梯子を駆け上がっているときは、あたかも一緒に連携して頑張ろう、といった状況を作っておきながら、一方で、着々と孤立化を進め、周りに誰もいない状況になったところで梯子を外す、という、ある意味でだまし討ちのような手口です。一方で、言ってみれば巧妙な仕事外しを徐々に進めることで、あなたの気持ちの中に、何かおかしいと感じつつも、それを否定したい気持ちとの葛藤の中で、現状を前向きに容認し続け、最後に引導を渡された時には、確かにショックではあるものの、心のどこかで、やっぱりそういうことだったのか、と納得する部分ができることで、最終的な結論についても、思わず受け入れてしまいかねない状況を作るという、人の気持ちをもてあそぶというか、気持ちの隙間に入り込むような、何とも気分の悪いものではないでしょうか。
リストラされているという前兆をつかみにくくする悪質な演出
この問題への対応に難しい点は、この陰湿なリストラが計画的に始まった時点では、その問題についてとても認識することが難しい、ということに突きます。上記の例でいえば、その第一段階は、あなたが経理課長に加えて、総務課長を兼任することになったことです。このときに、これはリストラの前兆だ、などと誰が想像できるでしょうか。
会社の意図を見破るために必要な視点
ですが、その最終的な目的がリストラにあるのであれば、その目的に合致する要素が必ずあるはずです。上記の例でいえば、総務課長の兼任するにもかかわらず、実務は課長代理に任せればいい、経理課長の業務も、課長代理に引き継げば負担が軽くなるなどと、あなたの関わる業務範囲を確実に狭めていることが分かります。
業務範囲が狭められていることを意識できれば、必ず疑問を投げかけること
それに加えて、部門別経営会議のメンバーから、経理課長であるあなたを、あなたに対して事前に何の連絡や説明もなく外したことは、明らかに確信犯的なあなたへの排除の意図が働いたものです。あなたが何もこれに対して疑義を唱えなければ、事実上〇〇課長代理を課長としての実態を積み上げることを着々と進めるわけです。
ここで、あなたが人事部長に対して、
「課長の本来業務を課長代理に担わせるということは、私に仕事をするな、ということでしょうか」
と踏み込んだとしたら、「まさか、感づかれたか…」などと人事部長は相当に慌てるのではないでしょうか。こうした小さな疑問に対して、逐次疑義を唱え、人事部長をけん制しながら、あなたに降りかかるダメージを最小限に食い止め続ける行動が重要になってきます。
【参考コラム】仕事外し
ですが、こうした対応は、あなたご自身が、小さな前兆から、自分自身がリストラのターゲットになっていることをはっきりと認識しなければならないものであるため、これはなかなか受け入れられないものかもしれません。そうであれば、こうした行動は、現実にはなかなかむつかしいかもしれませんがどうでしょうか。
リストラを認識した時点で、冷静に気持ちを切り替えられるか
大切なことは、これはリストラである、とはっきりと認識した時点で、どう対応するか、です。上記の例では、人事部長からはっきりと告げられるまで、その認識を明確にすることができませんでしたが、その段階で、あなたの置かれた周辺状況から、何をどうすればいいのか、冷静にお考えになる時間が必要でしょう。
ところで、この人事部長は、最後にはリストラであることを平然と認め、開き直ってしまいました。なぜそのような対応をするのかは、様々な背景が考えられますが、この時点で問題になるのは、配転命令の妥当性以外になく、賃金についても従来額が支給されているため、法的に救済を求める材料がないから、訴訟になどなり得ない、とタカをくくっているとも考えられます。
【参考コラム】配置転換の打診
賃金減額のない降格配転への対応
逆にあなたからすれば、どのような法的救済の求め方をすればいいのか、が問題ですが、すでに上記で書いていますが、リストラの意図を秘匿して、だまし討ちのように仕事外しを行い、なし崩し的に管理職の地位をはく奪した、というプロセスを問題とするほかないのではないかと思います。というより、この巧妙なプロセスこそ、信頼関係を一方的に損ねる行為であることは言うまでもないところですので、労働契約の根幹を揺るがす暴挙である、と断罪するべきでしょう。しかも人事部長の、リストラの何が悪い、と言わんばかりに対応は、悪質さのレベルを数段上げていることにもなるわけですから、これも重要な要素です。
【参考コラム】賃金減額
また、賃金減額がないと言っても、キャリアを積み、管理職まで務めたあなたが、上記のような例の流れで、新入社員ばかりの職場に配属されたとすれば、これは会社内での見せしめ的な意図が反映されていることはまず間違いないところであり、あなたを精神的に追い詰めることを意図しているのですから、不当な配転であることを公然と主張する必要があります。まさに会社によるハラスメントである、と言えるのではないでしょうか。
具体的な対応方法については、こちらからご相談ください(「パワハラ相談受付窓口」のページへのリンク)。