「パワハラ」かどうかの判断の問題

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パワハラかどうか知りたい、というご相談をよくお受けしますが、このご相談にお応えするうえで考えなければならない「二つの大きな課題」があります。

一つは、パワハラの定義の問題です。もう一つは、相談された方がパワハラではないかと考える問題を、どのように解決したいのか、という意向です。

パワハラの定義の問題

おそらく「パワハラかどうか」とお聞きになりたい方は、専門的な判断基準があって、それに照らして客観的な判断をしてほしい、というご希望を持ちのようです。ようやくという感が強いのですが、パワハラの法的な定義が定まりそうです。労働政策審議会では、1.優越的関係の基づく、2.業務上必要かつ相当なな範囲を超えた言動により、3.労働者の就業環境を害すること、身体的精神的苦痛を与えること、とする定義が適当としています。早晩、法律規定として明文化されるものとしています。

その結果、この定義に該当する言動については、パワハラとして「許されないもの」という法律規定が予定されていますので、パワハラと判断される言動を止めさせなければならない義務が課されることになります。ここではもはや、会社としてのパワハラ防止規程等に規定するパワハラの定義や、その判断を会社が恣意的に行うことができる余地は無くなった、と考えられます。つまり、これまでパワハラトラブルの幕引きを図る常套手段として会社が用いてきた、「事実は認めるが、会社としてパワハラがあったとは判断しない」などと言う理屈はもはや通用しなくなると考えられます。

法律規定として「許されない」ものとされるパワハラに該当する言動は、直接的には行政の解決制度を通じて、会社側に対して事態の改善を強く求めるものになると思われます。これまでは、パワハラの解決は、労働局の助言指導が活用されるケースが多かったのではないかと思われますが、今後はセクハラと同様に「調停」という解決制度が加わることになれば、会社による独自のパワハラに対する理屈や判断が入り込む余地はなく、パワハラの判断について、外堀が埋められたと言っても良いと思います。

ですが、パワハラ否認(?)規定は、パワハラは許されないものなので止めなさい、というものであって、パワハラに該当したら、いかなる要求も認められる、というものではありません。なお蛇足ですが、パワハラは許されないものという否認規定という文言はいいが、パワハラをしてはならないという禁止規定という文言は憚られるという見解は、いかにも訴訟リスクだけしか考えない旧態依然とした経営者的な発想で、問題の解決という本質が置き去りにされている感がぬぐえず、歯切れの悪さを感じます。

例えば、パワハラをする上司を処分してほしい、という意向をお持ちであれば、これは会社の人事措置に関する問題ですから、会社の就業規則に規定されているパワハラの定義に問題行為が該当している必要があります。

また、何からの経済的な補償を求めたい、という意向をお持ちであれば、その「パワハラ」行為によって、どのような具体的な損害が発生しているのか、という事実を主張できなければなりません。言い方を変えれば、民法上の不法行為や債務不履行に該当するかどうか、という問題です。しかし、繰り返しになりますが、慰謝料を請求することと、問題の解決がイコールかどうかは、全く別の問題であるということを念頭に置かなければなりません。

問題どのように解決したいのか、という問題

漠然とパワハラかどうかを確認したいと思っている方でも、それがパワハラである、と判断された場合、その問題を解決のためのよりどころとしたいと考えるのではないでしょうか。

この場合に、問題解決のプロセスで、安易に「パワハラ」という言葉を使うと、解決する問題も、問題が逆にこじれて解決しなくなることもあります。

パワハラという言葉は、とてもインパクトがあり、もっと言えば、当事者間を感情的にさせる効果があります。話し合いによる平穏な解決を目指す場合には、極めて慎重に使わなければならないキーワードです。

例えば、労働者が会社に対して、パワハラに対する改善措置を求めたとしても、このときに、「パワハラ」という言葉を使った段階で、会社からは当然に拒絶反応が現れます。会社はパワハラの存在を認めたくありません。それは「パワハラ」という言葉を、会社による不法行為責任を問うもの、その結果として慰謝料請求を伴うものとして受け止められているからです。

しかし、パワハラ否認(?)規定が法律として明文化され、その趣旨に対する理解が進めば、もっと容易にパワハラの問題解決が可能になるという希望的観測も成り立つのではないでしょうか。つまりパワハラは、認められないものであり、即やめさせなければならないものである、と同時に一方で、パワハラの存在が即慰謝料請求に結びつくものではない、という理解が進めば、会社のパワハラの存在を認めるハードルが下がるとも考えられ、パワハラの問題解決は大きく前進すると感じます。

「パワハラ」という言葉をどう使うのか、という問題

パワハラの定義が確定し、その問題解決も明確になることは、同時に問題の本質がパワハラなのか、問題の核心は別のところにあるのか、明確に意識しなければならない状況になると思われます。これまでのように、何でもパワハラと指摘をして、事態の打開を図るプロセスでは、解決できない問題がより多く出てくるのではないでしょうか。問題の核心はパワハラなのか、そうではないのか、何が問題なのか、とより明確に意識することが大切になってくると思われます。

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