パワハラの法的解釈から考える問題解決へのプロセス

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今あなたが抱える問題について、具体的な対応策を考える前に、パワハラの法的な解釈を概観しておくことが重要です。具体的な事例については、この解釈に当てはめて考えることで、対応の方向性が見えてきます。まずはパワハラという言葉の法的に意味について整理しておきます。

一人歩きする「パワハラ」という言葉

パワハラという言葉が定着するにしたがって、職場のトラブルはなんでも「パワハラ」と呼んでしまうような傾向があります。今までは職場の問題に対して、疑 問に思いながらもその状況を受け入れてしまっていたかもしれませんが、このパワハラというインパクトのあるキーワードの出現で、職場の問題を、それが適切 かどうかは別として、コンパクトに表現できるようになったことは、大きな功績だろうと思います。しかし同時に大きな誤解も生じることになっています。それ は職場の問題の大半は、パワハラが問題の本質ではないからなのです。

「パワハラ」という言葉は問題を感情的にする

あなたが感じている問題の大半は、いわゆる「労働契約」上の問題なのです。こうした問題を「パワハラ」と、十把一絡げに考えることで、問題の解決を複雑に したり、困難にしたりすることが考えられます。パワハラは、極めて感情的なトラブルなのです。その感情的なトラブルに対して、感情そのものを問題として も、すんなり解決できるとは到底思えません。

問題の具体的な事実は何か

職場で「嫌な思い」をしたときに、まずその「嫌な思い」の理由は具体的に何なのか、無理なノルマの達成を求められた、降格された、配転を命じられた、シフ トを削られた、みんなの前で叱られた、などなど、いろいろあるはずです。実は、この具体的ないろいろな事実がとても重要で、そのような事実関係の解消を求 めることが「パワハラ」の問題解決であるはずです。

「パワハラ」という言葉を使わずに考えると、問題が見えてくる

たとえば上司から、執拗に叱責されたとします。これはパワハラなのでは、と考えると、叱責という事実よりもパワハラがあった、というほうが何だかインパク トがあるような気もします。しかしこれをパワハラと言わずに、過剰な叱責と、具体的な事実関係を客観的にとらえれば、上司による過剰な叱責を止めてもらう ことが問題の解決であることに気が付きます。

パワハラの違法性は二つ

おそらくはみなさんがパワハラとお考えになる事実は、法的な問題として考える場合に、つまり法的にどのように解釈されるのか、という問題ですが、それは次の二つののいずれかなります。それはまず、権利の濫用です。もう一つは、不法行為です。

権利濫用とは

会社には巨大な人事権限が与えられています。それは解雇の制限と裏腹の関係にあるわけですが、配置転換、人事考課による賃金、賞与の決定、昇格降格、懲戒 処分、解雇…しかしそれらが無条件に認められている訳ではありません。それも行き過ぎれば、権利の濫用として、それらの行為は無効とされます。例えば、さ したる理由もなく解雇されたとすれば、それは解雇権の濫用として、会社の為した解雇は無効と判断されます。

利益侵害行為である不法行為

不法行為は民事上の利益侵害行為をさします。不法行為は違法行為ではありません。私たちの周りには様々な法律がありますが、それらの法律違反は違法行為と してそれぞれの法律に定められた所定の手続きに従って違法状態の解消を図ります。また民事的には、違法な行為は公序良俗違反として無効とされます。

過剰な叱責の違法性

執拗な叱責を上司から受けたような場合、これは法的にはどのように考えられるのか。まず権利濫用の視点からは、業務命令権限の濫用があったのか、という点 です。労働者は会社すなわち上司の指示命令に拠って業務を遂行します。上司の「業務上の」命令には従う義務があるのですが、だからと言って無条件にそれら の命令が法的に適切かどうかは別の問題です。もし業務上の範囲を超えて、あるいは行き過ぎた叱責であれば、これは業務命令権限に濫用として、それらの命令 は無効、と判断されます。もう一つは、過剰な叱責を受けたことによって精神的な苦痛を受けた、という利益侵害行為の有無を問う、不法行為の点です。

業務命令権の濫用を考える

業務命令権の濫用は、業務上の必要性から、その適切な範囲を超えた命令があった場合に該当します。例えば、一言注意すれば済むものを、長時間にわたって叱 責をするなどは、業務の必要な範囲を逸脱しており、業務命令権の濫用である、などと考えることができます。また、よくある例ですが、業務とは全く関係のな い私的なことを命じられるなども、これらは当然に業務命令権の範囲を逸脱するものです。こうした命令は無効となります。

過剰な叱責に対する慰謝料を請求する

では、過剰な叱責を法的に問題とする場合、ここで行われた業務上の必要な範囲を超えた様々な指示命令は、業務命令権の濫用であるから無効である、と主張し ます。つまりこうした命令は無かったことになる、ということです。原状復帰ですね。一方で、過剰な叱責によって「精神的な苦痛を受けた」という利益侵害の 側面である不法行為も主張できます。これに対して要求できるものは・・・そうです。「慰謝料」ですね。慰謝料をとりたい、いくら取れるのか・・・と考える 方も少なくありません。

慰謝料は取れるのか?

これを考える前に、「精神的な苦痛を受けた」といえる事実が本当にあったのか、これが重要なのです。過剰な叱責や暴言について、発言した上司などがそれを 認めるわけがありません。多少認めたとしても、「そこまでは言っていない」とか、「業務上の適切な指導の範囲」であるとか、典型的には、「君のためを思っ て言ったこと」などと恩着せがましく平気で言われます。こうなってくると、水掛け論にならざるを得ないおそれもあります。確かに録音などの証拠があれば、 事実関係は否定できないものになりますが、それが法的に問題となるかどうかは、別に考えなければならないことになります。。

慰謝料請求の理由は二つ

ここで慰謝料請求について整理しておきます。慰謝料は精神的な損害に対する補償であって、損害賠償請求そのものです。この損害賠償請求ができる場合です が、その理由は二つしかありません。一つは不法行為です。不法行為によって損なわれた利益の補償を求めるものです。もう一つは約束違反の場合です。債務不履行といいますが、労働者が会社に対して債務不履行を理由に慰謝料を請求する典型例は、安全配慮義務違反に対するものです。

慰謝料はいくらもらえるのか?

事実関係が認められ、しかもその事実が常識的範囲を超えたもので、精神的苦痛を受けるに十分であると判断された場合には、慰謝料請求が認められることにな ります。その額ですが・・・精神的苦痛の程度が問題となります。もっとも慰謝料に対する相場は、とても低いのが実情ですので、たとえば、「昨日いきなり大 声で叱責された」だけでは、認められるとしてもほんのすずめの涙ほどでしょう。おそらく慰謝料請求そのものが認められないのではないでしょうか。

裁判で結論を出すことの是非

会社が要求に応じないような場合に、訴訟という手段を取るときには、おそらくは弁護士に頼らざるを得ません。その費用数十万・・・ペイしますか?訴訟とい う手段しかないという重大な問題であるならば別ですが、軽々に利用できる手段ではないと考えるべきでしょう。ちなみにニュースで見かけるパワハラ裁判など では、何千万という高額な慰謝料が認められているものもあります。これらはパワハラ=いじめ・嫌がらせによって鬱などの精神疾患に罹患したとする労災事件 に対する慰謝料請求によるもので、なかでもパワハラ自殺などと報道される痛ましい事件での裁判です。

まずは話し合いによる解決を!

職場のトラブルのもっとも効率的な解決方法は、職場内での話し合いによる解決であることはいうまでもありません。しかも話し合いによる解決プロセスを経る ことで、事実関係を明確にすることができるようになります。最終的に法的手段を選択するとしても、こうした解決プロセスはとても重要です。しかも、こうし た叱責や暴言については、やめてもらうことがまず第一で、その上で謝罪して欲しいなどとなるわけで、一足飛びに慰謝料請求とはならないでしょうし、むしろ こうしたプロセスの結果であるともいえるでしょう。

重要な「法的判断」という根拠

話し合いによる解決だからといって、闇雲に問題を提議しても、逆に混乱したり、問題を複雑化させるばかりです。重要なことは、問題の焦点を絞り、客観的に 建設的な議論を進めることです。そのためにも法的な解釈を加味した議論がとても重要でしょう。これによっていたずらに感情的な議論を避け、納得性の高い解 決に近づけることができます。

この問題をどう解決したいのか

重複しますが、ここで改めて、この問題をどう解決したいのか、という判断がとても重要です。雇用環境の厳しい昨今、安易に退職という選択肢をとるには、リ スクが大きいでしょう。どこでどう妥協するのか、どうしたら平穏に解決できるのか、など、状況にあわせた判断が最終的に、最も重要な指針となるのもので す。ここで改めて考えておきたいことは、

パワハラを認めさせる≒経済的な補償を求める

ということです。少なくとも、会社は「パワハラ」という言葉を聞いたときに、何らかの法的な要求があろうことを想起します。会社から何らかの経済的な補償を求めることがあなたの問題解決であればともかく、社内的な平穏な解決を望むのであれば、今の段階で「パワハラ」という言葉を使うべきではないと思います。

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