パワハラ防止法の施行によって、解決制度はどう変わるのか
そもそも労働局の解決制度とは
パワハラの問題解決として、現在の労働局の解決制度としては、「助言指導」と「あっせん」があります。特に雇用の継続を前提にパワハラの状況の解消を図る手段として、「助言指導」はとても効果的な制度だと思います。
労働局の解決制度の目的は、当事者の任意による解決の促進にある
よく言われるのは、労働局の解決制度は強制力がないから…というものですが、強制力がなければ解決できないような問題の場合は、すでにこの解決制度が対応する範囲を超えています。労働局の解決制度は、あくまでも、当事者間の話し合いによる解決を促進する制度なのですから、社内的な解決のための働きかけや話し合いに行き詰っている状況で、何かちょっと手助けが欲しい、というときに、抜群の効果を発揮するのです。
制度活用の目的を明確にする
一方で、労働局?労基署?だから何?、という経営者や人事労務担当者に対しては、そもそもそうした姿勢で労務管理を考えているので、何の解決の手助けにならないのかもしれません。が、そんな経営者であっても、労働局から連絡があった、しかも何か問題があると指摘があった、と聞けば、表面上はともかく、心穏やかでは、決して無いでしょう。そうした微妙な心の機微を捉えて、事態の展開を、あえて図ることができる可能性もあるのです。
問題解決のために、この制度をどのように使うかという視点が重要
このように、労働局の解決制度は、こうした微妙な緩さ加減が、非常に使い勝手の良いものになっていると思っています。ここで大切なことは、この制度をどう使って問題の解決の図るのか、という視点を持つことです。この制度を使ったことによって問題を解決することができれば、もちろんそれに越したことはありませんが、それ以上に大切なことは、この制度の活用によって、問題解決の交渉の行方をどうコントロールするか、解決のためのツールとして、どのような役割を担わせるか、という到達目標をしっかりと見据えることです。これが効果的な活用ためのポイントではないかと思います。
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労働局の解決制度を活用する場合の前提は、社内的な解決ができないという客観的な事実があること
「微妙な緩さ」と書きましたが、とは言っても、労働局という行政機関が、あえて働きかけをするのですから、むやみに何でも助言指導をしてくれる、という訳では当然ないわけです。社内的な解決に行き詰っている、という状況が前提にあり、その状況に風穴を開けることを期待して、助言指導をしてもらう訳ですので、その行き詰っている状況を、助言指導の担当官の方に、これは確かに助言指導によって解決を図るべき問題だ、と考えてもらえるように説明をする必要がある訳です。その説明をするツールが、例えば東京労働局の場合には、助言指導の申出票という所定様式に記載をするものになります。ここで簡潔明瞭に状況を説明できることが重要なことは言うまでもないのですが、もう一つ大切な点は、この助言指導に、問題解決に当たってどのような効果を期待したいのか、という点が明確になっていれば、さらに効果的に活用ができるかと思います。少し難しい言い方になりますが、法的に救済すべき失われた利益があり、その利益を取り取り戻してほしい、という役割を助言指導に担ってほしいという申出にすることで、助言指導の実施につながるかと思います。
【参考コラム】社内的な問題解決に限界を感じたら
「調停」という解決制度の登場
調停は、すでに均等法や育介法、パート有期労働法に係る問題については、すでに動いている制度です。今ここで3つの法律を具体的に挙げましたが、労働条件に関する具体的な法律規定を根拠に、その法律違反を申請人が指摘をすることで開始するもので、実は、その内容はあっせんと全く変わらない金銭解決の話し合いです。全く変わらない、と書きましたのは、調停もあっせんも、結局実施するのは個別労働紛争解決促進法に規定する「紛争調整委員会」が実施するからです。
調停はあっせんと何が違うのか
とはいうものの、トラブル全般についての解決の促進を図る、あっせん、助言指導とも異なり、調停は、申請段階では、特定の法律規定を根拠に、その違法状態の改善を求めるという、より踏み込んだ問題解決に期待ができる制度です。逆に言えば、特定の法律規定を根拠にするので、トラブル全般を対象にするオールマイティーな助言指導、あっせんと比較して、対象となる射程範囲は限られますが、労使双方の妥協によって合意形成を図るというあっせんと実際に行うことはほとんど同じです。では何が違うのか、と言えば、被申請人である会社側には、調停の根拠とする法律、例えばパワハラ防止法上の調停であれば、パワハラ防止法違反を指摘する申請書を提出すること、それに対して被申請人には、あっせんのように応じるかどうかだけではなく、パワハラ防止法に規定した事業主としての義務をきちんと履行しているのか、今回のケースはきちんと事業主の義務を履行していたか、という回答を求められます。
パワハラ防止法上のペナルティーと調停とは、直接的な関係はない
なお、このいわゆるパワハラ防止法違反には、実はペナルティーがあるのですが、これは上記の調停とは全く無関係であるとお考えいただいた方が正解かと思います。
さて、この調停がついにパワハラの解決制度のラインナップに登場することになるのですが、この調停の根拠となる法律規定である、いわゆるパワハラ防止法は、労働施策総合推進法(略して「労推法」正確には、もっと長い名前ですが)、旧雇用対策法の中の条文の一部として組み込まれています。この法律に基づく調停を求めるにあたっては、すでに公表されている指針を確認しておくことで、より効果的に活用ができると思います。
パワハラかどうかわからないから、解決行動ができない!?
意外と多いご相談ですが、必ず私が申し上げるのは、矛盾するようですが、パワハラかどうかの判断が問題を解決するのではない、ということです。そもそもその判断が客観的に正確に判断できるものかどうか、極めて疑問です。解決行動は、パワハラではないかと感じる職場の状況の解消を図ることであるはずです。特に社内的な解決を図る場合に、使用者側にパワハラという言葉を使って問題の状況を指摘することには、私は、ほとんどの場合でお勧めをしてきませんでした。それは、使用者がパワハラの存在を積極的に認めることは、通常ありえないからです。これはパワハラとは認めない、という使用者の一言で解決がとん挫することは、とてもよくあることだからです。
【参考コラム】この問題はパワハラに該当するかがどうしてに気になる方へ
パワハラ規制法違反を指摘する必要がある
ですが、とても悩ましいことに、このパワハラ防止法に基づく調停を利用する場合には、パワハラであることを前提に解決を求めなければなりません。なぜならば、パワハラ防止法に基づく調停は、パワハラ防止法違反の是正を求めるものなのですから、問題事実関係の中心にパワハラの存在を強く肯定する必要がある訳です。それに対する解決のための使用者側への働きかけに対して、使用者側がパワハラの存在を認めずその解決要請に応じない、とか、パワハラの状況を容認、黙認している、相談に応じてくれない、相談したことに対して不利益な取り扱いを受けた、といった違法状態の是正を求める、という申出が必須でしょう。
パワハラ防止法は、事業主に解決措置を義務付けるもの
もっともこの法律では、パワハラ行為に対する責任が問われるわけではなく、未然防止対策や相談対応の適切性が問われるものでもあることから、パワハラかどうかの判断が示されるとは思えませんし、東京労働局の所定の申出書式では、パワハラかどうかの判断はしないことが明記されています。つまり、パワハラという言葉をどう使って、どのような制度を活用して、問題の解決を図るか、というツールとしてのパワハラという言葉の使い方を考える必要がある、ということではないかと思います。
具体的なケースへの対応については、ご相談メールをお送り下さい(「パワハラ相談窓口」のページへのリンク)。