パワハラ防止法の施行によって、何が変わるのか…

LINEで送る
Pocket

私が頂くご相談の中には、このパワハラ規制法の施行を待って、問題解決を図りたい、というご意向も散見されましたが、6月1日以降、この法律の施行に伴って、何か変わるのか、について考えてみます。

従来の「助言指導」という制度について

パワハラの問題解決として、現在の労働局の解決制度としては、「助言指導」と「あっせん」があります。特に雇用の継続を前提にパワハラの状況の解消を図る手段として、「助言指導」はとても効果的な制度だと思います。

よく言われるのは、労働局の解決制度は強制力がないから…というものですが、強制力がなければ解決できないような問題の場合は、すでにこの解決制度が対応する範囲を超えています。労働局の解決制度は、あくまでも、当事者間の話し合いによる解決を促進する制度なのですから、社内的な解決のための働きかけや話し合いに行き詰っている状況で、何かちょっと手助けが欲しい、というときに、抜群の効果を発揮するのです。

一方で、労働局?労基署?だから何?、という経営者や人事労務担当者に対しては、そもそもそうした姿勢で労務管理を考えているので、何の解決の手助けにならないのかもしれません。が、そんな経営者であっても、労働局から連絡があった、しかも何か問題があると指摘があった、と聞けば、表面上はともかく、心穏やかでは、決して無いでしょう。そうした微妙な心の機微を捉えて、事態の展開を、あえて図ることができる可能性もあるのです。

このように、労働局の解決制度は、こうした微妙な緩さ加減が、非常に使い勝手の良いものになっていると思っています。ここで大切なことは、この制度をどう使って問題の解決の図るのか、という視点を持つことです。この制度を使ったことによって問題を解決することができれば、もちろんそれに越したことはありませんが、それ以上に大切なことは、この制度の活用によって、問題解決の交渉の行方をどうコントロールするか、解決のためのツールとして、どのような役割を担わせるか、という到達目標をしっかりと見据えることです。これが効果的な活用ためのポイントではないかと思います。

「微妙な緩さ」と書きましたが、とは言っても、労働局という行政機関が、あえて働きかけをするのですから、むやみに何でも助言指導をしてくれる、という訳では当然ないわけです。社内的な解決に行き詰っている、という状況が前提にあり、その状況に風穴を開けることを期待して、助言指導をしてもらう訳ですので、その行き詰っている状況を、助言指導の担当官の方に、これは確かに助言指導によって解決を図るべき問題だ、と考えてもらえるように説明をする必要がある訳です。その説明をするツールが、例えば東京労働局の場合には、助言指導の申出票という所定様式に記載をするものになります。ここで簡潔明瞭に状況を説明できることが重要なことは言うまでもないのですが、もう一つ大切な点は、この助言指導に、問題解決に当たってどのような効果を期待したいのか、という点が明確になっていれば、さらに効果的に活用ができるかと思います。少し難しい言い方になりますが、法的に救済すべき失われた利益があり、その利益を取り取り戻してほしい、という役割を助言指導に担ってほしいという申出にすることで、助言指導の実施につながるかと思います。

「調停」という解決制度の登場

調停は、すでに均等法や育介法、パート有期労働法に係る問題については、すでに動いている制度です。今ここで3つの法律を具体的に挙げましたが、労働条件に関する具体的な法律規定を根拠に、その法律違反などの状況について、改善のための「勧告」をし、「調停案」に受諾を求めるというものです。

トラブル全般についての解決の促進を図る、あっせん、助言指導とも異なり、特定の法律規定を根拠に、その違法状態の改善を求めるという、より踏み込んだ問題解決に期待ができる制度です。逆に言えば、特定の法律規定を根拠にするので、トラブル全般を対象にするオールマイティーな助言指導、あっせんと比較して、対象となる射程範囲は限られますが、労使双方の妥協によって合意形成を図るというあっせんと比較するよりも、むしろ労働基準法違反の申告に対する調査に近いイメージが私にはあります。もちろんそこまでの強制力はないわけですが、特定の法律規定を根拠にして、その是正を図るという意味では、まさに是正「勧告」に近いと感じます。

そうした意味では、この調停を有効に活用するには、その根拠となっている法律規定を理解しておくことで、より効果的な活用ができるでしょう。

さて、この調停がついにパワハラの解決制度のラインナップに登場することになるのですが、この調停の根拠となる法律規定である、いわゆるパワハラ規制法は、労働施策総合推進法(略して「労推法」正確には、もっと長い名前ですが)、旧雇用対策法の中の条文の一部として組み込まれています。この法律に基づく調停を求めるにあたっては、すでに公表されている指針を確認しておくことで、より効果的に活用ができると思います。

「調停」の対象は、この6月からは大企業だけ

この6月施行のパワハラ規制法は、義務規定については大企業が対象で、中小企業は2022年3月までは、努力義務となっています。それと合わせて、この調停も、この6月からは大企業のみが対象となります。中小企業に雇用されている従業員の方は、引き続き、助言指導、あっせんによって解決を図ることになります。もちろん2022年4月からは、中小企業も義務規定の猶予は無くなり、調停の対象になります。

パワハラかどうかわからないから、解決行動ができない!?

意外と多いご相談ですが、必ず私が申し上げるのは、矛盾するようですが、パワハラかどうかの判断が問題を解決するのではない、ということです。そもそもその判断が客観的に正確に判断できるものかどうか、極めて疑問です。解決行動は、パワハラではないかと感じる職場の状況を解消を図ることであるはずです。特に社内的な解決を図る場合に、使用者側にパワハラという言葉を使って問題の状況を指摘することには、私は、ほとんどの場合でお勧めをしてきませんでした。それは、使用者がパワハラの存在を積極的に認めることは、通常ありえないからです。これはパワハラとは認めない、という使用者の一言で解決がとん挫することは、とてもよくあることだからです。

ですが、とても悩ましいことに、このパワハラ規制法に基づく調停を利用する場合には、パワハラであることを前提に解決を求めなければなりません。なぜならば、パワハラ規制法に基づく調停は、パワハラ規制法違反の是正を求めるものなのですから、問題事実関係の中心にパワハラの存在を強く肯定する必要がある訳です。それに対する解決のための使用者側への働きかけに対して、使用者側がパワハラの存在を認めずその解決要請に応じない、とか、パワハラの状況を容認、黙認している、相談に応じてくれない、相談したことに対して不利益な取り扱いを受けた、といった違法状態の是正を求める、という申出が必須でしょう。

それに対して、調停の場で、問題の事実関係はパワハラの範疇にあるとは言えない、とする指摘があった場合、もちろんだから問題は無い、と短絡的に考えられることないとしても、使用者側としては、これ以上の勝利は無いわけです。おそらく使用者側としては、調停でパワハラと判断されなかったことを大義名分として、状況改善の必要が無い、問題は無いというお墨付きが得られたかのような対応をすることが容易に想定できます。

もっともこの法律では、パワハラ行為に対する責任が問われるわけではなく、未然防止や相談対応の適切性が問われるものでもあることから、パワハラかどうかの判断が示されるとは思えませんし、東京労働局の所定の申出書式では、パワハラかどうかの判断はしないことが明記されています。

これからパワハラに関する調停が始まる訳ですが、どのような運用がなされるのか、注視していく必要があると思います。パワハラという言葉が問題の解決を困難にする状況を多く見てきた私としては、パワハラかどうかの判断が明確になされないとしても、問題の解決を左右する状況を生み出しかねない可能性があることを危惧しています。つまり問題に対してどのような解決を図るのかは、その合意内容の影響も極めて重要ということです。

公表というペナルティーがある以上、より客観的、具体的な判断基準が、更に精緻化される必要があると思いますが、一方で、パワハラかどうかの判断のみによって問題解決が大きく左右されないような工夫が、問題の解決、という本来の意味を考えれば、極めて重要になってくると感じています。

LINEで送る
Pocket