抽象的な言葉は悪魔のささやき

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「お前は何をやっても駄目だな」
「…」
「みんなもそう思ってること、分かってる?」
「みんなも、って…」
「お客さんからのクレームも多いし」
「…聞いたことがありませんが…」
「お前が知らないだけで、みんな知ってるよ」
「それは、どんなことでしょうか」
「自覚すらないんだ…」
「お話してもらわないと…」
「たくさんありすぎて、キリがない」
「それじゃ、私はどうすれば…」
「やる気あるの?」
「…」

この上司と部下のやり取りには、具体的な内容が全く含まれていません。おそらく上司は、自分の気に入らない部下をいじめてやりたい、精神的追い込んでやりたい、という勝手な動機でこんな会話を始めたことは、容易に推測ができます。

繰り返しになりますが、この会話を始めた上司は、具体的な問題となる事実関係などは、何も把握していません。というよりも、そのようなことをうかがわせる事実すら全くないかもしれません。でも、具体的な事実に触れなければ、こんな会話で、あなたの心に土足で踏み込んでくることができる、ということです。

ですが、いきなり冒頭でダメ出しを直言されて、冷静に返答ができる方は少ないと思います。誰でも少なからず動揺します。それは全く無理もないことです。具体的な内容に触れないまま、いつの間にか退職を迫られている、もう辞めるしかないのか、などと考えてしまうのではないでしょうか。

このやり取りの悪魔の呪縛から解放される方法は、あまりに簡単です。具体的な事実に踏み込めば、上司は、十字架を突き付けられたドラキュラよろしく、身もだえ始めます。

「お前は何をやっても駄目だな」
「ダメ、というのは、何を指しているのでしょうか」
「それは…、仕事中のことだよ」
「仕事中のどんなことでしょうか」
「どんなこと、って、仕事の仕方だよ、あいさつとか」
「あいさつ…?」
「そ、そうだよ、挨拶とか…」
「挨拶がだめなんですか?」
「だから、あいさつ、とか…」
「とか…でごまかさないでください」
「…お、おい、それが上司に対する言葉遣いか!」

上司は、最後に化けの皮がはがれます。吠えて威嚇するほかなくなってしまった訳です。ですが実際には、ここまで上司をやり込めてしまうと、その後の仕事がやりづらいのは確かですので、

「お前は何をやっても駄目だな」
「ダメ、というのは、何を指しているのでしょうか」

ここで上司は、不意を突かれます。具体的なことを聞かれるなどと思っていませんから、その答えももちろん持ち合わせていないのです。そこで苦し紛れにこう言います。

「それは…、仕事中のことだよ」
「仕事中のどんなことでしょうか」
「どんなこと、って、仕事の仕方だよ、あいさつとか」
「あいさつ…?」
「そ、そうだよ、挨拶とか…」

ここで、すでに上司はこの会話から逃げたい一心で、あなたの問いかけに対しても、もういい加減にしてくれ、などと思い始めています。そこで助け舟を出してあげれば、上司もホッとします。

「へー、…挨拶ですか…ふーん(これ以上あなたを追い込んでも、あなたのぼろが出るだけでしょうから、この辺にしておきますよ)」
「…」

これで勝負あり、でしょうか。こうした日々の牽制を小出しにすることで、残念なあなたの上司は、徐々にあなたに対して警戒心を持つようになります。下手なことは出来ないな、余計なことはしないようにしよう、という自制心が働くかもしれません。

あるいは、陰湿な上司であれば、あの手この手で、あなたに対して嫌がらせの罠を仕掛け続けるかもしれませんが、根気よく対応することが大切です。疲れますね。ですが、日常の業務にも支障が出ないうちに、これまでのあなたの残念な上司に対する、しょうもないやり取りを本社人事などに説明して、公然と問題解決を求めることが賢明でしょう。きっと人事もあきれると思います。

抽象的な言葉はとても便利です。具体的なことを言う必要が無いからです。裏を返せは、具体的な内容が無くても、何でも言える言葉が抽象的な形容詞です。ということは、抽象的な言葉には、それを発する人の気持ち、感情以外に、全く内容が無い、と解釈した方がすっきりします。

「お前は何をやっても駄目だな(お前の存在がうざいんだよ)」(※うざい、とは、生理的に受け付けられないこと)

「みんなもそう思ってること、分かってる?(みんなお前のことが嫌いなんだ、素直に俺に、みんな従ってる。そんなことも分からないのか、KYだな)」

上司はこう言っているのです。まるで子供のケンカです。こんな話に、正面から付き合う必要はない、ということです。

もし正面から答えたとすれば、

「お前は何をやっても駄目だな(お前の存在がうざいんだよ)」
「はぁ。いったい何のことを言っているのでしょうか(おい、ケンカ売ってるのか、上司のくせに大人げない)」
「おい、俺をバカにしているのか」
「ただ、ダメだ、何て言われても、分からないじゃないですか(自分が何を言っているのか、上司としての立場にいい加減に気が付いてよ)」
「このやろう、惚けやがって」

本当に、子供のケンカになってしまいました。上司の話の核心は、こんなバカバカしいものだったのです。

抽象的な言葉、具体的な指摘の無い注意指導は、それは上司の感情的な発作、上司として立場を忘れた、子供のケンカである、ということに気が付けば、きっと悪魔の呪縛から、すぐに逃れることができると思います。

上司からの、抽象的感情的な言葉によって、自分を責め、離職すら考えてしまう、そんな理不尽な状況に悩んでいるあなたにエールを贈るつもりで、書いてみました。

上司を悪者にしたまま終わっては片手落ちですので、次回は、残念な部下による悪魔のささやきも書きたいと思います。

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