パワハラかどうかの判断に意味はない!?

2023年10月6日opinion&topics,パワハラかどうかの判断

パワハラかどうかが分からない…?

ご相談頂くメールの中に、「パワハラかどうかが分からないので、解決行動を起こしていない」「パワハラであることが分かれば会社に解決を求めます」といった内容が散見されますが、問題の解決を求めるためには、問題として考えられる言動がパワハラかどうかが分からないための、解決行動に一歩踏み出せないとお考えになっているのではないかとも想像します。

パワハラの定義は抽象的

そもそもパワハラの定義は抽象的で、その判断も流動的です。仮に誰かが問題の事実をパワハラであると判断したとしても、何を根拠に、どのような判断基準によったのか、そして、そのパワハラであるという判断によって、何ができるのか、何をするのか、ここが重要です。

パワハラかどうかを判断するのは会社!?

あなたが会社側に対して、パワハラの問題を指摘して解決を求めた場合、まず指摘された事実関係について確認作業を行い、会社が事実として認めたものについては、次の段階として、それがパワハラに該当するのかどうかの判断をすることになります。つまり、あなたが問題として指摘した事実がパワハラに該当するかどうかは、会社が判断する、ということです。

会社が事実をパワハラと判断した場合

例えば、会社がある特定の事実をパワハラであると認めた場合には、ますそのパワハラと判断された言動の再発防止措置を講じる義務が会社に課せられます。また、その事実が就業規則の懲戒規程に規定する懲戒事由に該当すれば、何らかの懲戒処分が検討されることになります。

あなたがパワハラの解決を求めることが前提

そうした意味では、あなたがパワハラであると指摘した言動を止めさせる実効性のある再発防止措置を会社に求めたい意向をお持ちであれば、まずはパワハラがあるから何とかして欲しい、という解決要請をする必要があることが分かります。また、パワハラの加害者であると指摘する相手に何らかの処分してほしいと考えるのであれば、その考え方の是非はともかく、会社によるパワハラの判断には意味があると言えます。

会社がパワハラを積極的に認めることは期待できない!?

あくまでも一般論ですが、会社に対する責任問題に発展する要素ともなりかねないパワハラを、そう易々と認めることはありません。

もしあなたが、会社にあなたが直面する問題をパワハラであると判断して欲しい、とお考えになったとしても、会社に対して、これをパワハラであると判断しろ、と要求することは、要求すること自体はできるとしても、会社がそれに応じる義務もなければ、そうした要求に拘束されることもありません。社内的にパワハラかどうかを判断するのは、会社の裁量の範囲であり、極論すれば、全くの自由なのです。

パワハラではないという判断に納得ができないとき

ところが、あなたが問題として指摘をした事実は、パワハラの6類型にも当てはまるのに、会社はパワハラではない、と判断したとすれば、もちろんあなたは納得ができないでしょう。パワハラの典型類型に該当しているのに、会社はパワハラと判断しなかったことを、どう問題にすればいいのか…これは間違いなくパワハラに該当するのに…

労働局もパワハラかどうかの判断はしない

パワハラ防止法を管轄する労働局は、この法律に関する紛争について、調停という解決制度を設けていますが、この調停申請書の2枚目をよく読むと、パワハラかどうかの判断はしない、と明記されています。

それはある意味で当然と言えば当然で、パワハラ防止法が会社に求めているのは、相談対応と解決措置であって、パワハラかどうかを適切に判断することを求めているものではないからです。

加えて、パワハラに該当しないと判断した場合でも、問題の再発防止に配慮した対応をすることを暗に求めています。つまり、パワハラ防止法は、パワハラであると指摘されるような問題が起きないように未然防止対策を講じなさい、ということを会社に求める法律だということです。

パワハラに該当する、と判決文に書かれることはある。が…

では裁判ならどうかというと、判決文の中では、いわゆるパワハラに該当する、といった文章が見つけることができる場合があります。裁判であれば、あなたの指摘する問題がパワハラかどうかを判断してくれる可能性がある、ということになります。

ですが、裁判で、パワハラかどうかを判断して欲しい、という訴えをすることはできません。訴え自体に意味が無いからです。もっと言えば、判断自体に意味が無いわけからです。ではなぜ裁判でパワハラかどうかの判断をするのか、といえば、その判断が損害賠償請求の理由になる可能性があるからです。このあたりの問題は弁護士の先生方の専門になってくるかと思いますので、深入りはしたくないのですが、つまるところ、裁判であなたが指摘する問題がパワハラかどうかの判断をしてもらいたい場合には、損害賠償請求をすることが必要になる、ということです。

パワハラかどうかの判断を求めることで得るものと失うもの

得るものは、金額は状況次第ですが、損害賠償であり、失うものは、今の会社での雇用機会、でしょうか。裁判は喧嘩だからです。もちろん会社と喧嘩をしながら、その喧嘩の相手に雇用してもらい続ける、という選択肢がないとは言えませんが、現実の問題として、どうでしょうか。ここから先は、あなたご自身のご判断です。損害賠償の金額次第でお考えになる、ということであれば、あなたの意向をしっかりとくみ取ってくれる弁護士にご相談いただければと思います。

閑話休題…雇止めをパワハラである、と指摘することの問題

不利益な配置転換を命じられた、これはパワハラではないか、あるいは契約更新を拒否された、これはパワハラだ、と指摘されることもしばしばありますが、配転命令の問題は配転命令の問題として、雇止めの問題は雇止めの問題として解決を求めることが大切でしょう。

自分の言に沿わない配転命令を受けたことに対して、これは嫌がらせそのものであってパワハラだ、と言いたくなる気持ちも分かりますが、これがパワハラではないという結論になった場合、パワハラでないこと=適切な配転命令、であるかのような錯覚が生まれ、これ以上の問題解決が図れない袋小路に自分から入り込んでしまうことになります。

これは配転命令の場合ですが、配転命令の適法性は、業務上の必要性、不当な動機の有無、不利益の程度などの要素を考慮して判断がなされるという判例法理が確立しています。もし配転命令に問題があると考えるのであれば、配転命令そのものを問題にすべきものです。

また、雇止めについては、労働契約法19条の問題そのものです。

重要なことは「何を、どう解決したいのか」

もちろん、嫌がらせのように感じる配転命令を「パワハラだ」と指摘することが、全く無駄なこと、という訳ではありません。パワハラであることをどうしても認めさせたい、パワハラがあることを公言したい、という気持ちが大きいのであれば、パワハラであることを強く主張すべきでしょう。

ですが、配転命令を撤回させたい、という意向を持ちながら、これがパワハラではないか、と指摘することは、解決の方向性が大きくそれていることに気が付く必要があります。

配転命令の場合で考えてきましたが、問題はこれに限らず、何を、どう解決したいのか、をまずは考えることです。パワハラという言葉は、必ずしも必要がないことに気が付くはずです。

具体的なケースへの対応については、ご相談メールをお送り下さい(「パワハラ相談窓口」のページへのリンク)。

【参考コラム】問題解決のための行動に一歩踏みだす前にお読みいただきたいコラム~解決行動を起こす前に考えるべきこと