ワーカーズ・コレクティブの誤解と問題点

2023年10月24日opinion&topics

ワーカーズ・コレクティブに関わるきっかけは、一通のメール相談

ずいぶん以前になりますが、ワーカーズ・コレクティブで働いている方から相談を受けたことがあります。内容についてはおぼろげですが、確か就労に当たっての出資金について、とか、「賃金」が低い、仕事が回してもらえない、といった内容だったように記憶しています。

ワーコレは、個人事業者の事業協同組合(だった…!?)

ワーカーズ・コレクティブ、略してワーコレは、「労働者協同組合」であり、理屈の上では、労働者自身が出資して組合員となり、共同経営を行う事業組合で、しかも労働者が自ら経営するというものですから、個人の自営業者の事業協同組合、というほうが分かり易いように感じます。ここでいう労働者とは、経営者に雇用されるという意味での「労働者」ではなく、経営者自ら労働するという意味での労働者であろうと思います。建築関係でいうところの「一人親方」と同じでしょうか。したがって労基法をはじめとした労働諸法令の適用はないことになります。ここに大きな誤解があり、問題となるところです。

法人格を取得するのは労働者保護制度の適用を受けることが目的

もっとも、労働諸法令の適用はない、とは言うものの、それは法律上の義務を負うべき使用者が存在しない、もっと言えば、労使が一致しているのですから、自分が持つ権利を自分で履行するという矛盾に陥るわけです。ただ労働保険や社会保険については、何か方法があるのではないかとも思いますが、実際には、ワーコレがNPOなどの法人格をもつことで「ワーカーズ」をNPOが雇用するという形をとることで対応は可能ですが、その場合には、この時点ではもはやこの「ワーカーズ」は労基法上の「労働者」となるため、労働保護法令の適用があることになります。この点は重要なところです。

法人格を持つことで、労使関係が発生するという矛盾

しかし、これで問題がクリアになったわけではありません。「労働者」としての立場を確保したことで、経営者としての立場はどうなるのか。経営責任をワーカーズ個々人にどう負わせるのかが問題になってきます。例えば、経営状況が悪化したため最低賃金が確保できないような状況に陥ったときにどう対応するのか、といった問題です。NPOで雇用する形をとることは、雇用されたワーカーズは「労働者」である、ということを前提に、ワーコレをどう運営していくのか、という課題を考えなければなりません。

ではワーカーズをみんな理事にしていしまえばいいのか、という考え方もあるかもしれませんが、この場合、報酬の支払いを前提に社会保険の加入はできますが、労働保険は諦めなければなりません。

雇用契約の締結により、法的リスクは解消する

残念なこと(?)に、このワーコレが、雇用の受け皿の選択肢となりつつあり、一方で人手の足りないワーコレは、きちんとした説明をしないままメンバーに加えていることもあるのではないでしょうか。雇用契約を結んで「賃金」を支払うのであればともかく、組合員として労働する(させる?)のであれば、一人一人が経営に責任を持つ事業主であることを理解させなければならないでしょう。この点はもっとも重要なワーカーズ・コレクティブの原点ではないでしょうか。そうした説明や手続きを欠いたまま、経営に参画させることもなく、一部の組合員があたかも他の組合員の使用者であるかような実態があれば、法的な責任を問われる可能性もあると思われます。

これは有償ボランティアと類似のケースかと思いますが、ワーカーズ本人がどのような意思を持って組合員になっているのか、という点が重要ではないでしょうか。多少のグレーな部分はあったとしても、ワーカーズコレクティブという働き方に十分な理解と認識があれば、トラブルのリスクを回避できるのではないかと思われます。

労働者協同組合法の施行で状況は一変する!?

ワーコレの課題の一つは、ワーカーズの労働者としての側面に対して、労働者保護法制の適用が困難であったことでした。具体的には、労働社会保険の適用の問題が挙げられます。この問題の解決のために、多くのワーコレは、NPO法人として法人格を取得することで、ワーカーズを法人が雇用する労働者という形式を整えることが可能にして、ワーカーズを労働者保護法制の適用を受けるようにしていました。

この場合、ワーカーズはもはやワーカーズと言えるのか、NPO法人は、非営利法人とはいえ法人の一形態であり、ワーカーズとの間には明らかに労使関係が存在する矛盾をどう整理するのかは、悩ましい問題ではなかったでしょうか。ここに労働者協同組合法の成立で、労働者協同組合が法人格を持つことができるようになったことは、その悩みの解決についての一つのヒントになるのではないかと思います。

労働者協同組合も法人格を持てば、ワーカーズは労務管理の必要な従業員になる。ただし…

それは労働者協同組合法上の法人格を持つための要件として、ワーコレとしての意義が客観的に再定義されたと考えられるからです。非営利を前提とすることに加えて、ワーコレの経営者である労働者であるという二面性を、経営意志決定機関として総会の設置、運営を義務付けていることです。つまり言い換えれば、社員全員が一人一票の議決権を持つという意味での、会社所有者という意味での組合員である、ということかと思います。そうした意味では、この組合員総会を活性化できるかどうかが、ワーカーズとしての実態を保つことができるかどうかにかかっているともいえるのではないでしょうか。

労働者協同組合の労使トラブル(?)は、ワーカーズとしての認識ギャップも大きな要因

冒頭の問題に戻りますが、ワーカーズである労働者が、なぜ出資金が必要なのか、賃金や仕事の内容についての不満を持つのか、その理由は、一言でいえば、採用(?)時の説明不足ということになるかと思いますが、ワーカーズという働き方、そのベースとなる考え方を理解するためのハードルが高いことも事実ではないでしょうか。パートやアルバイトとして就労を希望する応募者に対して、「ウチは労働者協同組合と言って、仕事をする人は全て組合員になり、経営責任があり…」などと説明をしたところで、きょとんとされてしまうだけでしょう。彼ら彼女らは、所定の時間を働いて、時間分の時給を賃金としてもらうことを目的に応募しているのですから、ましてやワーカーズの理念などまで理解を求めることは、とても不可能という気がします。

ワーカーズの理念を理解させることは、経営者感覚で仕事をしろ、ということと同じ

こう言い切ってしまうと、身も蓋もないのですが、労働者協同組合も会社組織である以上、人材をどう活用するかという判断が迫られることは、他の会社形態であっても、なんら変わることがありません。つまり従業員管理、労務管理が必要になる場面が必ずある、ということではないかと思います。従業員である組合員全員に、ワーカーズとして理念を前提に就労させることは、つまり、経営者感覚で仕事することを求めるということであって、例えば、それをある社長が従業員に対して、常日頃から口にしていたとしても、社長の意図を汲んだ行動をする従業員がどの程度いるのか、というお話に近いのではないでしょうか。

ワーカーズからのクレーム対応については、労務トラブルとして考えるべき

ですので、例えば指示されたことだけを淡々とこなすスタッフから、仕事の仕方や賃金について不満があった時に、ワーカーズなんだから、という説明では、そのスタッフである彼ら彼女らは、全く理解ができないのではないでしょうか。こうしたスタッフに対して、労基法等の労働法に基づく説明をしてあげなければならない、ということになるかと思います。彼ら、彼女らは、形の上ではワーカーズであっても、ワーカーズの理念を理解したワーカーズなどではない、雇用するスタッフであり、従業員である、という前提で対応する必要があるのではないかと思います。

具体的なトラブルについてのご相談は、こちらのページ(「労務トラブルのご相談案内」のページへのリンク)をご参照いただければと思います。

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Posted by kappa