ずいぶん以前になりますが、ワーカーズ・コレクティブで働いている方から相談を受けたことがあります。内容についてはおぼろげですが、確か就労に当たっての出資金について、とか、「賃金」が低い、仕事が回してもらえない、といった内容だったように記憶しています。
ワーカーズ・コレクティブ、略してワーコレは、「労働者協同組合」であり、理屈の上では、労働者自身が出資して組合員となり、共同経営を行う事業組合で、しかも労働者が自ら経営するというものですから、個人の自営業者の事業協同組合、というほうが分かり易いように感じます。ここでいう労働者とは、経営者に雇用されるという意味での「労働者」ではなく、経営者自ら労働するという意味での労働者であろうと思います。建築関係でいうところの「一人親方」と同じでしょうか。したがって労基法をはじめとした労働諸法令の適用はないことになります。ここに大きな誤解があり、問題となるところです。
もっとも、労働諸法令の適用はない、とは言うものの、それは法律上の義務を負うべき使用者が存在しない、もっと言えば、労使が一致しているのですから、自分が持つ権利を自分で履行するという矛盾に陥るわけです。ただ労働保険や社会保険については、何か方法があるのではないかとも思いますが、実際には、ワーコレがNPOなどの法人格をもつことで「ワーカーズ」をNPOが雇用するという形をとることで対応は可能ですが、その場合には、この時点ではもはやこの「ワーカーズ」は労基法上の「労働者」となるため、労働保護法令の適用があることになります。この点は重要なところです。
しかし、これで問題がクリアになったわけではありません。「労働者」としての立場を確保したことで、経営者としての立場はどうなるのか。経営責任をワーカーズ個々人にどう負わせるのかが問題になってきます。例えば、経営状況が悪化したため最低賃金が確保できないような状況に陥ったときにどう対応するのか、といった問題です。NPOで雇用する形をとることは、雇用されたワーカーズは「労働者」である、ということを前提に、ワーコレをどう運営していくのか、という課題を考えなければなりません。
ではワーカーズをみんな理事にしていしまえばいいのか、という考え方もあるかもしれませんが、この場合、報酬の支払いを前提に社会保険の加入はできますが、労働保険は諦めなければなりません。
残念なこと(?)に、このワーコレが、雇用の受け皿の選択肢となりつつあり、一方で人手の足りないワーコレは、きちんとした説明をしないままメンバーに加えていることもあるのではないでしょうか。雇用契約を結んで「賃金」を支払うのであればともかく、組合員として労働する(させる?)のであれば、一人一人が経営に責任を持つ事業主であることを理解させなければならないでしょう。この点はもっとも重要なワーカーズ・コレクティブの原点ではないでしょうか。そうした説明や手続きを欠いたまま、経営に参画させることもなく、一部の組合員があたかも他の組合員の使用者であるかような実態があれば、法的な責任を問われる可能性もあると思われます。
これは有償ボランティアと類似のケースかと思いますが、ワーカーズ本人がどのような意思を持って組合員になっているのか、という点が重要ではないでしょうか。多少のグレーな部分はあったとしても、ワーカーズコレクティブという働き方に十分な理解と認識があれば、トラブルのリスクを回避できるのではないかと思われます。
労働者協同組合法の施行で状況は一変する!?
ワーコレの課題の一つは、ワーカーズの労働者としての側面に対して、労働者保護法制の適用が困難であったことでした。具体的には、労働社会保険の適用の問題が挙げられます。この問題の解決のために、多くのワーコレは、NPO法人として法人格を取得することで、ワーカーズを法人が雇用する労働者という形式を整えることが可能にして、ワーカーズを労働者保護法制の適用を受けるようにしていました。
この場合、ワーカーズはもはやワーカーズと言えるのか、NPO法人は、非営利法人とはいえ法人の一形態であり、ワーカーズとの間には明らかに労使関係が存在する矛盾をどう整理するのかは、悩ましい問題ではなかったでしょうか。ここに労働者協同組合法の成立で、労働者協同組合が法人格を持つことができるようになったことは、その悩みの解決についての一つのヒントになるのではないかと思います。
それは労働者協同組合法上の法人格を持つための要件として、ワーコレとしての意義が客観的に再定義されたと考えられるからです。非営利を前提とすることに加えて、ワーコレの経営者である労働者であるという二面性を、経営意志決定機関として総会の設置、運営を義務付けていることです。