「パワハラ」という言葉の正しい使い方

2023年10月24日opinion&topics,解決行動のヒント

パワハラという言葉は慎重に使うべき

パワハラ相談室なのに、パワハラという言葉を使うことに慎重である必要がある、というお話をお書きしたいと思います。

お送り頂くご相談メールの中には、パワハラに対する謝罪や慰謝料請求を求めたい旨の希望を書かれたものも散見されるのですが、そもそも問題解決とは何なのか、この点については、例えば、すでに離職済みで、金銭による解決しか手段がない場合はともかく、在職中であったり、雇用の継続をお考えであれば、問題の解決は、お金や謝罪ではなく、まずパワハラ状態を解消することが、実は法的にも合理性を持つもの、ということになります。

パワハラという言葉を使った場合のリスク

一方で、どうしても会社にパワハラを認めさせたい、とお考えに方もおられますが、パワハラを認めろ、と会社に求めた場合、会社はどう考えるか。当然パワハラはない、と答えたい訳です。そのために、会社は事実関係の確認作業をします。そしてどう答えるか。答えは、「パワハラは無かった。」です。これでは何の問題解決にもなりません

かつて、こうしたことがありました。会社側との話し合いで事実関係を概ね認めたうえで、それをどう解決するかという段階で、「パワハラ」を認めて謝罪しろ、と会社側に求めたのです。それに対して、問題の事実はパワハラではない、という返答だったため、パワハラかどうかが議論の焦点になってしまいました。つまり、問題の解決をパワハラの存否に固執したため、解決できる問題が解決できなくなってしまった、というものです。パワハラを主張したために陥ってしまうリスクの一つかと思います。

「パワハラ」という言葉は、問題解決をとん挫させる余計な形容詞

では、パワハラという言葉は使わないほうがいいのか、というご質問に対しては、「安易にお使いにならないほうがいい」とお答えしています。もっと言えば、あなたがパワハラであるとお考えになっている問題の解決、それが上司の暴言であれば、その暴言を止めて欲しいとお求めになることこそが解決行動となるので、そこにわざわざ「パワハラ」などと言う余計な形容詞を入れる必要はありません。

パワハラという言葉を使いたいあなたの気持ちは…

ですが、パワハラという言葉を入れることによって、何か問題の重大性というか、上司はパワハラ加害者であることをなんとなくアピールできるというか、問題解決を求めるための大義名分を高らかに宣明することで自分の解決行動には大いに意味がある、などと、なんとなくではあっても、勇気をもって解決行動を起こそうとする自分自身を鼓舞したい気持ちが、パワハラという言葉に託されている、とも個人的には感じます。

パワハラという言葉の持つ法的な意味とは…?

ですが、パワハラという言葉が使われたとたんに、会社は固い鎧を着始めるのです。パワハラというなら、しかるべき手続きに従って申告して、などとパワハラの事実関係の聞き取り確認のレールにのせられてしまうかもしれません。実はこれは会社にとって当然のことで、パワハラ防止法では、パワハラの相談があったらきちんと対応して、パワハラが確認出来たら再発防止措置をとること、が会社の義務として規定されているからなのです。

「こっちとしては職場内で穏便にさっさと対応して解決しようと思っていたけど、パワハラなんて物騒な言葉を使われちゃったら、本部のコンプラを通さない訳にはいかないだろ…」

などと上司が考えるかもしれません。ですが、パワハラなどどこ吹く風、パワハラに対する確信犯的な無関心な組織、職場、上司に対しては、あえて「パワハラ」という言葉を使って、パワハラ防止法上の義務が必要なレールの上にのせるのです。

パワハラという言葉を使われた以上、会社はこの問題を無視するわけにはいかないのです。パワハラ防止法違反に抵触することになるからです。

パワハラかどうかなど、考える必要はない!?

ここで大切なことは、あなたがここでパワハラという言葉を使うにあたって、その問題がパワハラかどうかをお考えになる必要は全くない、ということです。あなたがパワハラであると感じれば、その感じたとおりの表現をすればいいからです。

パワハラという言葉を使うべき唯一の状況は…?

つまり、会社にあなたが指摘する問題について、正面から向き合ってまずは問題として認識しろ、という働きかけをする際に、パワハラという言葉は絶大な効果を発揮する、ということになります。

ですが、誤解がないように付け加えますが、あなたがパワハラであると感じたのであれば、自信をもってパワハラとして問題解決をお求めになれば良いと書きましたが、その問題がパワハラの範疇に入るかどうかは全く別の問題ということになります。つまり、あなたがパワハラという言葉を使ったのは、あなたがその問題をパワハラとして考えろという意向であって、会社がその問題をパワハラと判断するかどうかは、全く別の話なのです。

パワハラという言葉は、問題意識を喚起するキーワードに過ぎない

パワハラという言葉は、会社側に対して、問題の重大性を喚起するためのキーワードである、ということです。極論すれば、一旦パワハラという言葉を使ったことによって、会社が問題と向き合えば、後はパワハラについてどう考えられるかなど、どうでも良い話ということです。

パワハラという言葉を使う場面はかなり限定的

そう考えますと、パワハラという言葉を使う機会は、極めて限ら他場合であることが分かります。問題に対してきちんと向き合ってくれる大多数の会社に対しては、パワハラなどと言う言葉を使わなくても、きちんと問題に対応してくれると思うからです。

それでも、やはりパワハラがどうかが気になる、という方はこちらをご参照ください。

状況に応じた対応方法をお知りになりたい方は、「パワハラ相談窓口」から、ご相談メールお送り下さい。

【参考コラム】問題解決のための行動に一歩踏みだす前にお読みいただきたいコラム~解決行動を起こす前に考えるべきこと